第七回 蕭家荘の吉芝陀聖母

 さて吉芝陀聖母が申しますには――

「わらわはあの日まで金睛百眼鬼と一緒に、北極駆邪院の梭婆鏡によって封印されておった。じゃが華光が天宮を騒がし、金鎗太子を追いかけよった。太子は北極駆邪院へ逃げ込み、梭婆鏡の後ろへ隠れたので、華光が金磚で梭婆鏡を撃ち破ったのじゃ。おかげでわらわと金睛百眼鬼は脱出できたが、あやつが何処に行きよったかはわからん。

 わらわは今雲の端から南京微州府?源県は簫家荘を眺めておるが、ここの簫という長者に名を永富と申す者がおる。こやつの妻の范氏は毎夜裏庭にある園で香を焚き、世継ぎを求めて祈っては香を薫らせておる。

 わらわはヒトリガに姿を変えよう。そしてあそこへ行って灯火を消し、范氏を喰ったらわらわが范氏になりすまして簫長者を騙し、奴と交わろうぞ。おお、そうじゃそうじゃ、そうしよう」



 さて、ある夜范氏婦人が裏庭の園に香案を置き、まさに香をあげてお祈りをしようとしていたその時、一匹の大きなヒトリガが飛んできて灯りを消してしまいました。范氏は大変驚いて、すぐに下女を呼んで灯りをつけさせようとしましたが、元の姿に戻った吉芝陀聖母にあっという間に食べられてしまいました。

 それからというもの、吉芝陀聖母は范氏に姿を変えて昼夜を問わず簫長者とのお楽しみに耽りました。そして今夜は東の家で一人喰い、明日は西の家から一人喰いと、毎晩一人人間を喰っていたのです。隣近所の人家では、一人また一人の誰かが居なくなっていくので、皆悩んでおりましたが、誰も本当のことは知らないのでした。范氏は代わる代わる近隣の家から人を食っていきましたが、簫長者もまた、それが偽の范氏だとは知りません。

 ある日のことです。ニセ范氏が懐妊いたしました。このことを簫長者に知らせますと、簫長者は四十歳になるまで子供がいなかっただけに妻の懐妊の知らせを聞いて大変喜び、夫妻が楽しく暮らしたのはそれまでといたします。



 さて天曹の玉皇上帝は華光が下界に到ったとの知らせを聞き、後々の災いになるのを恐れ、再び軍を招いて馬を買い集めますと華光を捕らえに向かわせました。

 これから一体どうなりますやら、それは次回の解き明かしにて。