第八回 華光 蕭家荘に生まれ変わる

 さて華光天王は天下を巡遊し、朝眞山洪玉寺に帰って参りますと、すぐに寺に入って火炎王光仏に拝謁いたしました。挨拶が終わると、光仏は華光に訊ねます。

「弟子や、お前はこの二年というもの、一体どこにいたのだね?」

 そこで華光は千里眼・順風耳を収めて子分にしたこと、于田国国王に廟宇を立てさせたことなどを一通り話しました。光仏、

「ここにはおらん方がよい、今玉帝がお前を捉えようとして兵を集めているのだ」

 華光、

「もしまた玉帝の奴が兵を寄こしてきたらどうすればよいでしょうか。願わくばお師匠様、この弟子めに往くべき道をお教え下さい。もし逃げおおせることが出来たら、決してお師匠様のご恩は忘れません」

「もしお前が丁度良い居場所が欲しいなら、どこかに投胎し、生まれ変わるのが良かろう」

「私は于田国に廟宇を立ててもらってから、今や万民から香を受ける身分となりました。今更どこに生まれ変わったものでしょう?」

「お前が逃げきれないなら、やはりそうした方がよいだろうよ」

 そこで華光が光仏に訊ねますには、

「この弟子め、行くにあたってはどのように行けばよいのでしょうか?」

 光仏が答えて、

「以前釈迦如来がお前に五通を賜って下さっただろう。それらとまとまって同じ母胎に投胎し、一つの肉塊を為し、母親に生み出されるのを待つがよい」

「ですが凡人には肉塊の中のことなど分からず、きっと鬼子だと思って中を開いてみようとは思いますまい。もしそうなったら、どうやって生まれ出るんですか?」

「お前は何も心配しないで行きなさい。私が後からついていってお前を助けてあげるから」

 こうして華光はお師匠様から教えを受け、五通の金光に変じると、フラフラフワフワ、風に身を任せて南京微州府?源県は簫家荘まで辿り着きました。華光が雲から簫家の人が呟いた独り言を聞いたところによると、ここの奥様は懐妊したものの二十ヶ月も経つのにまだ出産していないそうです。その声が雲まで届いて、華光は考えました。

(これはこの家に生まれ変わるのが良さそうだな)

 そこで、三更時分になると簫婦人の寝室に忍び込み、五通ともども婦人の体の中に入り込みました。



 簫婦人は目を覚ますとすぐに腹痛を感じ、急いで簫長者を起こしました。長者は起きるとすぐに灯火を用意させ、天に「早く男の子が産まれますように」と祈りを捧げ、続けてお線香をあげました。

 祈りも終わったころ、侍女が出てきて長者に報せることには、

「奥様がご出産なさいました」

 長者が訊ねて、

「その子は男かね女かね?」

「男でも女でもございません。ただ牛の胃袋のようなものでございます」

 長者は大変驚き、自分も范氏の部屋に入って見てみますと、果たしてそこにあるのは一つの牛の胃袋のような固まりだけでした。長者は怒り狂い、すぐに召し使いの少年に命じます。

「お前これを担ぎ出して河の中に捨ててこい! いいか、決してこのことを人に知られるなよ。笑われて恥を掻くだけだからな」

 少年は命令通りその牛の胃袋を河縁まで担ぎ出し、河の中に捨ててしまいました。しかしどうしたことでしょう、牛の胃袋はごろりと転がると河岸を上って来るではありませんか。少年は驚いてまたそれを河に捨てました。しかしまた牛の胃袋は上がってきます。

 何度かこれを繰り返しましたが、埒があきません。少年は慌てて帰り、このことを長者にご報告いたしました。

「あの牛の胃袋は水の中に捨ててもごろりと転がり上がってきて、また捨ててもまた上がってきて、何度もこの繰り返しです。一体どういたしましょう!」

 長者はこれを聞き、

「これはもう土に埋めてしまうしかあるまい。それでも依然として上がってくるようなら、裏門の辺りにでも埋めてしまうまでだ。決して人に知られてはならんぞ」

 そこで召使いの少年はその牛の胃袋をもって帰ってきました。長者は悶々と思い悩んでおります。


 さて火炎王光仏は一人の和尚に姿を変えると、簫家へ托鉢しにやってきました。長者が堂にいると、和尚は長者に向かって進み出て、合掌の礼をいたします。長者が礼を返して言うには、

「今日お越しいただいたのは、一体どんなご用件ですか?」

 和尚、

「ただ托鉢しに来たのですよ」

「私は今用事がございますので、また明日お越し願います」

「おや、あなたは平常大変善良なお方ではないですか。なぜ今日私がお宅に托鉢しに来たのに、会うのを後回しにされるのです?」

「私めは善良などではございませんよ。ですが今日会うのを後回しにするわ寄進はしないわ、その上私が何も言わないのではあなたは何がなんだか分かりますまい。ではお話することにいたしましょう。

 私めは普段から精進し、よく寄進もしてきましたが四十歳になるまで子供がおりませんでした。ですが幸いにも昨年家内が懐妊いたしまして、二十ヶ月経った今日出産したのです。この私も大変喜んだのですが、産まれた子を見てみるとそれは赤ん坊ではなく牛の胃袋のような物体でした。そこで召使いの小僧に言いつけてその物体を河に捨てさせたのですが、小僧が捨ててもそいつはごろりと転がり上がってくるというじゃありませんか! それで小僧の奴はどうしようもなくて、まずは帰ってきて私に報せたのです。私は人にこのことを知られるのを恐れ、小僧にその物体を持って帰らせ、夜になるのを待ち、裏門の辺りに埋めてしまおうと思ったのです。このことが心にありましたもので、失礼ながら和尚様に明日お出でいただくようお願いした次第です。そうでなければ私はすぐにでも寄進しましたとも。どうしてあなたを退けたりいたしましょう?」

 和尚はそれを聞くと、お祝いを述べてこう申しました。

「これは牛の胃袋と言うよりも、肉塊と申すべきものですな」

 長者、

「では肉塊なら、どうするべきでしょうか?」

「長者殿はお年が四十になるまでお子さまがいらっしゃらなかったが、今日立て続けに五人ものお子さまに恵まれたのです」

「一つしか見えませんが、五人もとは一体どこにいるのです?」

「この肉塊の中に五人いるのです」

 こう言われても長者は信じません。そこで和尚、

「もしもあなたが信じないのでしたら、私が刀で切り開いてあなたにお見せしましょう」

 言い終わると早速和尚は肉塊を切開いたしました。すると果たして、中から五人の男の子が出てきたのです。長者は大変驚きました。和尚、

「恐れることはありません。これぞまさに五人の菩薩様が見事に成仏なさってここに生まれ変わられたのです。きっと長者にご縁があってのことでしょう。これこそ長者の寄進するお気持ちがこうした形で報われたものです」

 それを聞いて長者は大喜び。そこで和尚、

「今日は九月二十八日ですな。彼ら兄弟五人の生誕を祝し、私が長者殿に代わってご子息一人一人に名前を付けるとしましょう」

 長者、

「それはそれはありがとうございます」

 和尚はまず一番目の子に簫顕聡と名付けました。そして二番目の子には顕明、三番目の子には顕正、四番目の子には顕志、五番目の子には顕徳と名付けたのです。名前を付け終えて言うには、

「五人のご子息は臓腑が凡人と異なっておりますな」

 長者、

「何が違うのですか?」

「凡人の臓腑は肉です。ですがご子息の臓腑は、上の子からそれぞれ金輪臓・銀輪臓・銅輪臓・鉄輪臓・華光臓と、このように別れております」

「今日彼らは生まれましたが、これから一体どうなるでしょう?」

「三日で言葉をしゃべるようになり、成長いたしましたらきっと四人は暇乞いをして、まずは修行をしに行ってしまわれます。一人はまだ家に残りますが、その日が来たら出て行かれるでしょう」

 長者はこれを聞いて大喜び、和尚を引き留めて昼食をご馳走しようとしました。しかし和尚は、

「貧僧用事がございまして早く行かねばなりません。どうもおじゃまいたしました、また改めて伺います」

 そこで長者は和尚をすぐに見送り、別れを告げました。

 さて簫長者は五人の息子と一緒に、母親の范氏婦人に会いに寝室へ行きました。母、

「あなた達五人を生んでから、私はまた一人女の子を産んだんですよ」

 華光、

「私たち兄弟は五人だけですよ、なぜまた妹がいるんですか?」

「もし信じないのなら、今後ろの壁の方にいるから見てごらんなさい」

 すると、そこには確かに女の子がおりました。華光が思うに、

(きっとこれはあの瓊花もここに投胎したに違いないぞ)

 そこで華光は母に申し上げました。

「妹には、瓊娘と名付けましょう」

 母、

「良いですよ」

 長者、

「今日は宴会を開くからお前たち兄妹六人一緒に出なさい、親戚たちと顔合わせしよう」

 しかし四人の子供たちはこのように申し上げます。

「顕徳と妹はここで父上母上のお世話をいたしますが、私共四人はまずはお二人とお別れし、修行に出ようと思います。功績と徳行が充分になりましたら、お二人を連れて共に西方へ仏を拝みに行きましょう」

 これを聞いて長者と范氏は、

「既にそう決めているのなら、私たちも留めはしないよ。お前たち兄弟はとても親孝行だ、私たちも心配しないですむ」

 こうして四人は両親に別れの礼をすると華光と妹だけは家に残り、両親をそれはそれは大事に扱いました。長者はこれをこの上なく喜び、客を招いて宴席を並べたことはそれまでといたします。



 さて吉芝陀聖母は華光たち兄妹六人を生んでからというもの、それまでよりさらに惨く、毎日毎日簫家荘の人を食べておりました。小作料を払ってくれている顔見知りの農家でも取引をしている知り合いでもかまわずこっちを食べ、あっちをつまみ、逞しい若者を選んで食べる毎日を送っておりました。

 ある日、ちょうど龍瑞王が雲に乗って、霊山へご挨拶に行こうとしているときのことです。龍瑞王は雲から吉芝陀聖母が簫家荘で人を食っているのを見て、怒りました。

「この逆賊めが! 邪心を改めず、今また下界の簫家荘で人を食い、万民に害を及ぼしおって! ここは私が行脚僧に姿を変えて、あの家に托鉢しに行こう。するとあの業畜生めはきっと私を食べようとするだろうから、その時は本性を現してあの畜生めを捕まえ、?都に投げ込んでこの害を取り除いてしまおう」

 言い終えると龍瑞王は雲から降りて、すぐに行脚僧へと姿を変えると、行くこと一里、簫家荘に着き、木魚を叩いて托鉢を乞うのでした。その様子を門から見ていた召使いの少年は、このことを知らせに奥の部屋へと向かいました。

 范氏婦人が奥の部屋で座っていると、召使いの少年が戻ってきてこう申し上げます。

「門前に一人の行脚僧が来て、我が家に托鉢を乞うております」

 范氏はこれを聞いて密かに喜び、すでにその和尚を食べることを考えるのでした。そこですぐに少年にその和尚に入ってきていただくよう言いつけたのです。少年は命令を受け、僧に話をつけました。僧はすぐに少年と范氏婦人に会いに行き、婦人のすぐ近くで深々と挨拶をいたします。婦人も礼を返し、少年に斎(精進料理)の準備をしてねんごろにおもてなしをするよう命じました。

 少年が出ていくと、范氏はこの僧をやぶにらみに一瞥し、僧が非凡な人物であるのを見て、早速僧を食べようといたしました。僧は婦人が不届きな心を起こしたのを見ると、すかさず神通を起こして元の姿に戻り、前に躍り出て范氏を引っ捕らえるのでした。范氏は逃げようとしましたが及ばず、僧によって雲の上に捉えられ、やっと解放されたかと思うと?都に投げ込まれたのです。さらに龍瑞王は神通を顕わすと遮鏡を用いて千里眼を遮り、彼に千里のことが見えないようにしてしまいました。また鉄宝丸を二つ用いて順風耳の耳を塞ぎ、千里のことを聞こえなくさせてしまいました。これで龍瑞王は手筈を整え、元通り禅壇へと向かったことはそれまでといたします。



 さて召使いの少年が斎の準備を整えて戻ると、范氏婦人も僧の姿も見えません。声高に呼んでみても、やはりおりません。この日は簫長者が家におりませんでしたので、瓊娘が出てきて事情を訊ねました。少年は行脚僧が托鉢しに来たことを一通り説明いたします。これを聞いて瓊娘は、きっとその僧が范氏をさらったに違いないと思い至りました。そこで泣きながら母親を捜しに出かけました。

 道中泣きながら母親を捜しますが見当たりません。右往左往し、ひっきりなしに泣き叫ぶこと、あたかも「慈烏 母親を失うが如し」で、聞く人の胸を痛ませるのでした。そうして瓊娘がやって来たのは、西郷村という村です。

 この西郷村に、張一郎という男がおりました。彼は今年当番が回ってきて社頭を務めております。また李進という者も社頭となり、二人で祭りの準備会代表をしておりました。

 と申しますのもここには烏龍大王という妖怪がおり、毎年少年と少女の生贄を供えれば村が一年中無事であるように守ってくれるのですが、もし生贄を出さないと一年中平安はなく、自然と疫病や瘴気が広まるようにしてしまうのです。もしその童男童女の生贄が行くときは、紙を焼き、祭主が退きますと烏龍大王が現れ、生贄を食べて行ってしまうのです。

 二人は今年社頭の当番が回ってきましたが、生贄に出来る子供が一人もおらず、どうしたものか考えあぐねておりました。丁度そんなとき、女の子がシクシク泣きながら声を張り上げて母親を捜しにやって来ました。この女の子こそ、瓊娘なのです。二人はそれを見てたちまち胸中に殺意が起こりましたが、表にはそれと出さずに瓊娘に訊ねます。

「お嬢ちゃんのお母さんはどこの家の人だね?」

 瓊娘、

「私のお母様の姓は范というの。私は幼い頃からお母様のお部屋やお庭から出たことがないから、お母様の実家がどこかは知らないわ。今朝私のおうちに一人のお坊さんが托鉢に来たので、お母様がお斎の支度をさせたの。でも召使いがお斎の支度をしている間に、そのお坊さんがお母様を連れていってしまったのよ。私はすぐに追いかけたけど、ちっとも跡が見えないの。ねえ、皆様は私のお母様を見なかった?」

「お嬢ちゃん、お名前は?」

「私の家は前の方にある簫家荘という村で、私は簫長者の娘の瓊娘といいます」

「お父さんはどちらにお出でだい?」

「お父様はまだ村に戻らないわ」

 そこで二人はこそこそと相談し、このような嘘を付いたのです。

「お前があの村の簫永富の娘なら、お前はわしの娘の子だね。本当だよ。わしはお前の外公(母方の祖父)さ。あそこにいるのはわしの弟だから、お前は大叔父様と呼ばなきゃならん。

 もう泣くのはおよし。お前の母親はあのタコ坊主に捕まってここを通りかかったが、丁度たった今わしら兄弟が見つけて、タコ坊主はわしらにやられて逃げていったよ。お前の母さんはちゃんと助けて、今わしの家にいる。お前はわしの孫なんだから、すぐに母さんに会わせてあげよう」

 瓊娘は二人が嘘を付いているとは気づきませんから、全て信じて、二人に騙されて付いて行ってしまいました。そして二人に家の中へと連れて来られ、とうとう空き部屋に閉じこめられてしまったのです。

 二人は大喜びで、相談をまとめます。

「これで女の子は一人確保できた、あとは男の子をまた探しに行けば、祭りの日はバッチリだ!」

 二人の話し合いは、さておきまして――

 瓊娘は社頭たちに騙されて家までやって来て、部屋に閉じこめられてしまいました。心中思いますに、母親にも会えず、またこれでは自分も家に帰れません。不安と悲しみで声を張り上げて泣き続けたことはそれまでといたします。



 さて華光が空中で天曹の様子を探ったあと、雲に乗って帰ろうとしたその時、たちまち号泣する声が聞こえてまいりました。雲を止め、よく聞くとなんとその泣き声は妹の声そっくりです。驚いて下へ降りて見てみると、果たしてそれは妹の瓊娘でした。華光は近づいて瓊娘に訊ねます。

「お前はどうしてこんなところにいるんだ?」

 瓊娘、

「お兄さま、帰らないで! 実はおととい一人のお坊さんが私たちの家に托鉢しに来たんだけど、お母様がそのお坊さんにさらわれちゃったの。私はしばらくの間辺りを探してたんだけど、慌ててて道を間違えてしまったの。そうしたらこの家の人たちが私を騙してここまで連れてきて、閉じこめられちゃったのよ。でもこれから私のことをどうする気かは分からないわ。お兄さま私をおうちに帰して、そしてお母様を捜しに行って!」

 華光はこれを聞いて言いました。

「よし、まず先にお前を家に送ってやる。そしてその後で俺はお前に変化し、その二人がここに戻ってくるのを待って、どういう魂胆か確かめてから母上を捜しに行こう」

 華光は祥雲に乗り、瓊娘を家まで送りました。そして自分は身を一揺すりして、瓊娘に姿を変えたのです。そこへあの社頭たちが戻ってきて、ブツクサ言っております。

「女の子の方はもういるから良いが、男の子がおらん。いよいよ明日は祭りだが、どうしたもんかな?」

 李進、

「男の子をどこで捕まえるんだ? お前は息子がいないし、俺にもいない、どうしようもないさ。明日はあの女の子だけ廟の中へ連れていって烏龍大王へ差し出そう。そして大王にこう言うんだ、

『もし私たち二人に息子がおりましたら一人連れてきたのですが、私たちどちらも息子はおりませんので、ただ女の子だけ連れてまいりました。どうかお許し下さいませ』

……ってな。それで大王が許してくれるかどうかを見て、もし許してくれなかったら、またその時相談しようや」

 張一郎、

「そうだな、その通りだ」

 次の日のことです。線香を用意し紙燭を燃やし、女の子を連れてきますと、烏龍廟の中へ入れて生贄にいたしました。華光はこれを聞いて思いました。

(俺はなんで妹が捕まってたのか知らなかったが、何ともこりゃあとんでもないことだぞ。まずは生贄になって廟の中に入ってみて、それで烏龍大王とやらが俺をどうするか待ってみよう。もし俺に逆らうようならすぐにでもそいつをぶっ飛ばして、それから母上を捜しに行くか)

 社頭たちは華光の束縛を解きますと、今度は廟の中へ閉じこめてお祈りをいたしました。それが終わると廟の外へ出て、それぞれバラバラにその場を去っていきます。するとたちまち一陣の怪風が起こり、突然一人の男が現れたのです。その頭はまるで大樽にも似て、口は血塗れのタライのよう、そり上がった牙に剥き出しの歯。腕を伸ばして来て、今にも華光を食べようとしております。そこで華光は元の姿に戻ると、手に降魔鎗を握ると烏龍大王に向かっていきました。大王はその槍を見てもう逃げることは出来ないと悟り、地面にひれ伏してそのまま華光に捕まったのです。烏龍大王は命乞いを致します。それを聞いて華光、

「もし俺に助けて欲しいって言うんなら、お前は邪を改め正に帰して、俺のこの団子を食うんだな」

 烏龍大王、

「どうか天王のお団子を食べさせ、天王の配下とさせてくださいませ」

 これを聞いて華光は火丹を一つ取り出すと、団子にして烏龍大王に食べさせました。

 華光、

「お前がたった今喰ったのは、俺の火丹で作った団子だ。もしこれからお前が俺に逆らえば、その火丹がたちまちお前を腹の中から焼き尽くすぞ」

 烏龍大王、

「もう決して逃げたりいたしませんとも」

 そこで華光が言いつけますに、

「お前はもう俺の手下なんだから、今夜村中の民の夢枕に立って『これからはもう生贄はいらん。三牲と甘酒だけ用いよ』って告げるんだ。俺はここを離れて母上を捜しに行くからな」

 言い終えると、華光は烏龍大王の元を去りました。烏龍大王が早速夢枕に立ちに行ったことはそれまでと致します。



 さて華光が離婁山へ戻ると、千里眼と順風耳に訊ねました。

「俺の母上がそいつに連れ去られたんだ、どこにいるかわからんか?」

 これを聞いて千里眼が、

「奥様は龍瑞王に連れ去られました。しかし奴めどんな術を使ったのか、私にはどこに連れて行かれたのか見えないのです」

 また順風耳は、

「私にもどこに連れて行かれたのか聞き取れません」

 華光、

「お前たちのうち一人は見えないと言うし、一人は聞こえない、一体どうすりゃいいんだ!」

 そこで千里眼と順風耳が申しました。

「龍瑞王はきっと冥土に連れていったに決まってまさぁ。天王がもし奥様が本当に冥土に落とされたかどうか知りたいんならいい方法がありますぜ。まず太乙救苦天尊に化けて道場を建て、経を講じ法を説き、あちこちから浮かばれない魂やら行き場のない霊やらを集めてきて経を聞かせるんです。そんで天王が問いただせば、きっと詳しいことが分かりますよ」

 華光はそれを聞き、次の日早速華光寺の中で呪文を唱えると太乙天尊に化け、道場を建てて経を講じ法を説いたのです。三界中のさまよえる魂やら霊やらが集まり、やってこないものはないのでした。華光は仏門の弟子ですから、お経の一つや二つは知っているのです。さて経を講じ終え、霊魂たちに訊ねました。

「簫家荘に簫奥様という方がいらっしゃるが、お前たち見なかったか?」

 しかし皆口を揃えて「知らない」と言うばかり。華光思うに、龍瑞王は簫婦人を連れ去って、ここには来ていないようです。仕方がないので斎を食べると解散としたこと、霊魂たちがそれぞれちりぢりになったことはここではくだくだしく述べますまい。

 さてこれから一体どうなりますのか、それは次回のお解き明かしにて。