第十六回 華光 東岳廟を焼く

 華光は現世に戻ると、一人考えました。

(東岳聖帝のやつめ、どうして俺を陰司に行かせやがったんだ! これじゃあ俺は人に「あいつは天界を騒がし、下界も騒がし、更には陰司も騒がせた」と言われ、皆は俺を「三界を騒がせた奴」と呼ぶだろう。よし、こうなったら東岳廟に火を放って焼いちまおう)

 さっそく華光は東岳廟の門下までやって来て火を放ちましたが、一向に火が起こりません。華光が見上げると、屋根にいる両頭蛇が黄砂を吐き出して火を消してしまうために、火が起こらなかったのでした。華光は苛ついて、三角金磚を投げつけました。両頭蛇が逃げ出したところで、再び華光は火を放とうといたします。ところがその様子を喪門吊客・哭殺神官という二人の兄弟が目撃し、兄弟二人が話し合うには――

「奴のような極悪非道は誰にもどうすることもできまい。そこで、私とお前の二人でこの法宝紙棺材を持っていこう。華光に三度泣きかけて、奴が泣き死んだらこの棺桶に入れて玉帝陛下に引き渡すんだ。そうすれば一つにはご褒美をいただけるし、二つには奴が下界を騒がすこともなくなるぞ」

 二人は相談し終えると、さっそく華光のいる門までやって来ました。二人、

「貴様、そんな悪さをするんじゃない! 聖帝はちっとも貴様を恨んでいらっしゃらないのに、なんだって貴様は東岳廟を焼こうとしたりするのだ!」

 華光、

「お前ら二人に何が出来るってんだ?」

「貴様が我々の言うことを聞いてすぐに去れば良し、だがもし去らねば、我々が貴様を焼き殺すぞ」

「そういやぁお前は泣いて人を殺すんだったな! 俺を焼くって言うんなら、まずは泣いて俺を殺してみたらどうだ?」

 二人はこれに応え、大きな泣き声を上げました。途端に華光は頭がクラクラ眼がグルグルし、ついになき死んで地面に倒れ伏してしまったのです。

 二人は華光を担いで棺桶に入れ、玉帝に引き渡しに行こうといたします。すると、ちょうどそこへたまたま朝真山洪玉寺の火炎王光仏がやって参りました。光仏は二人が棺桶を担いで行こうとするのを見て訊ねました。

「お前さんたち兄弟は、誰を率いていくのかね? どこへ行こうとしとるのかね?」

 喪門神、

「この華光が東岳廟を焼きに来たので、私たちが泣き殺してやり、玉帝に引き渡してご褒美をいただくのです」

 光仏思うに、

(こ奴等め、今私に会わなんだらえらいことになっていたの。よし、私が華光を助けてやるとするか)

 そこで光仏、このような嘘を申しました。

「お前さんたちは、この華光という奴の身分を知っておるのかね?」

 二人、

「いいえ存じません」

「華光はなんと玉帝の外甥でな、お前さんたちが玉帝のところに華光を引っ張っていったら陛下は怒り狂って、こう仰るだろう。『貴様ら良い度胸だ、貴様は朕の外甥を泣き殺しよったな』――と。そして玉旨によってお前さんたちは捕まり、殺されてしまうだろうな。さあどうするね?」

 兄弟はこれを聞いてビックリ仰天、

「お優しい先生、あなたの仰るとおりだとすれば、一体どうしたらよいのでしょう?」

 光仏は企んで、心中考えます。

(華光は火の精だからして、火を見ればきっと目を醒ますだろう。ここは奴等を騙して火を放たせ、棺桶を焼き払ったら華光も逃げ出せるだろうて)

 そこで光仏は二人に申します。

「まあ、火を放って焼き殺してしまうことだな」

 二人、

「教えて下さって有り難う御座いました」

 ここで、光仏は二人と別れました。

 二人は、

「ここであの方にお会いできなかったら、今頃私たちは地獄への道をまっしぐらだな」

 などと話しながらただちに棺桶に火を放つと、火に焼かれて華光は目を覚まし、金磚をば二人に打ちつけました。打たれた兄弟たちは逃げる先のあるもございません。

 華光は服装の乱れを整えると、師匠に挨拶をしに朝真山へ向かいました。あの兄弟たちは金磚に頭を打たれて脳髄が破裂し、光仏のくそハゲめが、と罵り、泣き喚きながら去っていきました。


 さて光仏が部屋にいると、突然華光が挨拶をしにやって参りました。光仏、

「弟子や、お前も物の通りを知らんね。お前が母親を捜し出したいなら、何で私に尋ねずに、陰司に行ったりするのだ?」

 華光、

「私めは慌てておりましたので、お師匠様に伺うことを思いつけませんでした。今幸いにもお師匠様にお会いできましたので、おたずねいたします。私の母は今いったいどこにいるのでしょうか?」

「お前の母親は龍瑞王に拘束され、日中は銅の棍棒で三十回打たれ、夜は鉄の棒に縛り付けられているのだよ」

 華光は母がで苦しんでいることを知ると、声を放って泣き喚き、師匠に別れを告げて離婁山へ返っていきました。

 華光はこれから一体どうするつもりか。それは次回をお楽しみに。